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いつでも元気

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特集2 「女性外来」って? 心と体に配慮し総合的に診療 各科の専門医が必要に応じて連携

 「女性(専門)外来」という言葉をよく聞くようになりましたね。これは、昔からある「産婦人科」や「婦人科」の呼び方を変えたというだけではありません。

性差医療に着目して

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戸田稔子
島根・松江生協病院女性診療科

 男性と女性ではもともと生理機能に違いがあり、病気の発生率や病気の現れ方にも違いがあります。しかし15年ほど前までは、あまりこの違いが注目されてきませんでした。
 1990年ごろからアメリカで、「同じ疾患でも男女で違う。男女の社会的な地位の変化でも病気のあり方は違ってくる。ここに着目して研究を進め、診断や 治療、予防にも生かすべきだ」という動きが始まりました。性差医療(gender-specific medicine)という考え方です。「女性」が強調されるのは、医療の研究分野でも、男性中心だったためといえるでしょう。
 日本ではまだ、男女の違いは子どもを産むか産まないかくらいのものと思われがちですが、子どもを産む機能をもつ女性の体は、男性とは異なるホルモンに、 一生、影響されます。女性は、女性であるがゆえの病気や悩みがあります。また女性の社会参加が増えるにつれ、病気の現れ方も経過も変わってきています。女 性の心と体に配慮した総合的な医療が求められているのです。

臨床心理士の資格を修得し

 私たち産婦人科医は、性差医療という概念のない時代から、妊娠・分娩・更年期障害など女性の生涯にわたる健康管理に携わってきました。
 松江生協病院産婦人科でも以前から一般の産婦人科診療のほか、思春期外来・更年期外来・不妊外来などの専門外来をやっていましたが、性差医療の考え方か ら、より総合的な女性診療をめざすことにしました。
 まず担当医が臨床心理士の資格を修得し、2000年4月に「産婦人科」を「女性診療科」に改名。思春期から老年期まで女性の心と身体をトータルにみるこ とを目標に掲げました。産婦人科医3人(2人は臨床心理士も兼任)、臨床心理士1人で始まり、好評をいただきました。

「レディース外来」を開設

 06年、外来をリニューアルしたのを機に、「レディース外来」を新装。念願の「女性外来」を始めました。診察室を4つに増やし、4人の医師が同時に診療 できるようになり、「女性外来」を担当する産婦人科医のほか、外科、放射線科、泌尿器科の医師も、曜日を決め、診療しています。
 外科医2人は、要望の高かった乳腺・一般外科を担当、放射線科医は乳腺を、泌尿器科医は尿失禁などに対応しています。乳がんが心配な方や二次検診で受診 される方、尿失禁で悩む女性の方に専門性の高い医療を提供しています。
 レディース外来は、ほかの外来から離れた場所に専用のドアがあり、待合室も独立。プライバシーに配慮し、診察室は完全な個室です。広いトイレや安静室、 ベビーベッドもあり、赤ちゃん連れの受診も可能。車いすでも十分に動けるゆったりとした女性だけのスペースです。内診室も2つあります。

30分かけてじっくり話を

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 日本でも、01年半ばから性差医療にもとづく女性外来が始まり、国立大学付属病院、県立病院、民間クリニックで女性外来が次つぎにオープンしており、ど こも盛況と伝えられ、女性外来に対するニーズ(要求)や期待の大きさがうかがえます。
 女性外来に共通する特色として、次のようなことがあげられます。
 (1)女性特有の疾患(更年期障害など)や、女性に多い疾患について、よく知っていてくわしいことです。
 (2)現在の医療は臓器別に専門分化が進んでいて、総合的に診ることがむずかしい面があります。女性外来では、さまざまな専門分野の医師が必要に応じて チーム医療をおこなうなど、心のケアを含めてトータルに患者を診て、診療にあたります。
 (3)初診時に30分以上かけてじっくり話を聞きます。そのため、患者の気持ちや病気の背景を知ることができます。

「女性医師に診てほしい」

女性診療科受診者の内容(重複あり)

更年期関連 約30%
月経異常・月経痛・月経前症候群 約20%
子宮筋腫・子宮内膜症・卵巣腫瘍 約15%
不妊症 約10%
メンタルヘルス(DV、性被害含む)  約10%
腟炎・頚管炎・性感染症
乳房異常・乳がん健診
悪性疾患
排尿異常
骨粗しょう症
低用量ピル・月経調節・避妊
東洋医学

 そのほか女性外来の特徴として、(4)女性の医師やスタッフが担当することをあげている施設もあります。
 松江生協病院のレディース外来でも一般の女性診療とは別に、完全予約の女性外来を、1人約30分の枠で設けており、2人の女性の産婦人科医が担当しています。
 当院を受診した方に受診の動機を聞くと、男性医師では話しづらいことを女性医師になら話せる、女性特有の症状はまずは女性医師に診てほしい、未成年なの で男性医師には恥ずかしさがある、などの意見がありました。
 各地の女性外来のマスコミでの取り上げ方も、多くは「女性医師による」というところに焦点が当っています。スタッフが女性だからいいという反響は、私に とっては意外なほど大きいものでした。私自身は、病気が治るなら患者さんは男性医師、女性医師を選ばないはずだという気持ちがあるからです。
 現在の女性外来ブームの根底にあるのは、スタッフが患者さんの訴えをよく聞き、心身はもちろんのこと社会的問題にも共感して対応していること、総合的に 見て解決しようとするところだろうと思っています。

うつ病のカウンセリングも

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イラスト・いわまみどり

 女性外来では初診時、前述したように、産婦人科の専門医であり臨床心理士でもある女性医師が問診、診察、カウンセリングをおこないます。問診に重点を置 き、相談だけでも可能です。その上で、患者さんの病状・症状にあわせて連携の医師に紹介します。総合病院なので他科との連携も円滑です。乳腺疾患・尿失禁 は同じフロアで専門医が診察します。
 体調不良の原因として多いうつ病などの心身医療疾患では、保険の適応内で、1回約1時間の臨床心理士によるカウンセリングもおこなっています。
 検査は、次のような検査を必要に応じておこないます。
 一般的な婦人科検査としては細胞診、超音波、性感染症検査。乳腺疾患の検査としてマンモグラフィー(乳房のX線写真)、乳腺超音波。乳がんが疑われた場 合、マンモトーム(画像を見ながら注射針で細胞を吸引して調べる)で診断します。
 そのほか骨密度測定や、MRI(電磁波を使って体の断面を撮影する)、CT(X線で体の断面を撮影)、採血によるホルモン検査などです。

摂食障害や不登校も

 受診者は増加しており、年齢別の割合、受診内容はほぼ図表(前ページ)の通りです。10歳台から80歳台まで幅広く、内容も多彩です。
 年齢固有の相談としては、10歳台では思春期特有の月経異常の相談、20~30歳台では妊娠・不妊関連の相談、40~50歳台では更年期障害の相談など ですが、どの年代でも心身医療疾患、婦人科疾患は高率にみられました。
 心身医療疾患では、女性のライフステージを反映して、若い人では摂食障害や不登校が多く、その後、育児ノイローゼや産後うつ病、職場ストレスが増加、中年期以降でうつ病が増加します。
 表面には出にくいものの、DV(家庭内暴力)被害、性被害の経験をもつ女性が多いことも実感しています。男女差にもとづいた暴力が女性の健康に及ぼす影響も改めて考えさせられます。

こんな時には女性外来へ

 女性の体調不良の原因は複合的です。内分泌の乱れ、自律神経や精神状態の乱れ、生活リズムや食行動の乱れなどが連動して、全体的な失調を起こしやすいの です。女性のうつ病では、頭痛やしびれなどの身体症状が前面に出ることがよくあります。
 「こんな症状、どこに相談したらいいのかな」と悩んだときは、不調に対応する科を一つひとつ回る前に、ぜひ女性外来に相談してほしいと思います。
 女性の身体は40歳台から卵巣の働きが低下し、50歳前後に閉経を迎えます。更年期は、このような変化が現れる45歳ごろから閉経を経て安定する55歳 ごろまでの期間です。ホルモンの急激な変化を土台にして、まさにさまざまな体調不良をきたすことがあります。
 更年期症状の中で明らかに女性ホルモンの欠乏によるものはホットフラッシュと呼ばれる「急に暑くなったかと思うと急に寒くなる」「のぼせる」というもの です。このような症状で生活に差し支えがある場合には、女性ホルモンの補充療法が効果があります。この症状は多くの人が経験するものですが、程度が軽けれ ば自然に治ります。軽い場合はゆったり構えて治療はいりません。

ほかの病気が潜んでいないか

 そのほかの症状││肩こり、不眠、いらいら感、動悸、めまい、急に悲しくなる、疲れやすいなど、この年代の女性はいろいろな症状を感じます。更年期障害 という言葉はよく知られているため、「更年期障害でしょうか?」「プチ更年期?」といってこられる方は大勢あります。
 私たちは、外来でお話を聞きながら、ほかの病気が潜んでいないかを一番に考えます。
 Aさんは「動悸、疲れやすさ」を訴え外来にこられました。お話を聞くと、月経は順調でホットフラッシュもないということ。「とにかく疲れて仕事もできな い」という状態でした。脈拍が速かったので甲状腺ホルモンの採血検査をしたところ数値が高く、甲状腺機能亢進症がわかりました。すぐに内科に紹介し、治療 が始まりました。
 Bさんは「眠れない、涙が出て困る」といって受診されました。月経はまだ順調にあるとのこと。「家庭内でトラブルがあり、そのことが気になって眠れな い」といわれました。ストレスが原因のうつ状態と考え、安定剤と軽い抗うつ剤を処方しました。1週間後「少し気持ちが楽になりました」と笑顔が見られまし た。
 家庭内のトラブルなど一朝一夕には解決しないことのほうが多いのですが、よく眠れて元気になると、「なんとかなるか」と思えるようになるのですね。

様変わりした女性の人生

 産婦人科は従来、妊娠のときか婦人科疾患でどうしようもなくなったときに受診する科と思われてきました。だから女性はいまでも産婦人科にはいきにくい。 知り合いに見られて「妊娠」を勘ぐられるのも、「婦人病」を疑われるのもいやです。
 しかし女性のライフスタイルはすっかり様変わりしました。
 以前は、「女性の役割として出産・育児に終始する人生」「女性としての社会規範からはみださない人生」が普通の“女の一生”でしたが、いま初めて「女性 であっても子どもを産まない、あるいは産む子どもの数や時期をコントロールする。自分の望む教育を受け、社会人として自立し、家族以外にも生きがいが持て る」、そんな時代になりました。
 平均寿命も延び、閉経後約30年の人生が用意されています。そのため、これまで母子保健の枠組みの中でしか考えられなかった女性の健康に関しても、新しい保健システムが求められるのも当然です。
 新しい女性医療はこれらのニーズに対応できるものでなければなりません。まず、利用者が来院しやすい工夫や受診しやすい環境を整え、受診の垣根をできるだけ低くしたいと思っています。
 実際のところ、若い方や心身医療の方には「レディース外来なら、何をするところかわからないので、いきやすい」という方もあります。
 私たちにすべてのことができるわけでありませんが、ある程度心理的な病気なのか、重篤な病気なのか、それとも社会的な背景があるのか、更年期障害なの か、ホルモンの問題なのか、そういうことを鑑別する力は持っていないといけません。女性の身体に対する意識、理解を深め最新の知識を収集すること、一般的 な診断能力を高めること、面接や心理療法の技能を磨くことなどの努力を続けていきたいと思っています。


病棟もリニューアル
出産を家族で喜べるよう

 ベッド数20床のうち、14床が個室です。出産までの家族の関わりや、無事出産できたことを家族全員で喜べる場を提供したいという思いから家族で使える部屋を用意しました。
 1室は畳の和室。遠方から家族連れで来られる方などに、とくに喜ばれています。陣痛が始まってから出産後まで同じ部屋で過ごせる部屋も2室あります。

いつでも元気 2007.1 No.183